「鑑定士と顔のない依頼人」を鑑賞 【ネタバレ注意】2014/01/20

名匠ジュゼッペ・トルナトーレ監督の新作、「鑑定士と顔のない依頼人」を鑑賞してきました。12月半ばから公開されていましたが、やっと鑑賞する機会ができました。
いろいろな伏線がからみあったミステリーというふれこみだったので、画面の細部までのがさず見ようと意気込んで行きましたが...
鑑賞後、あまりの演出の見事さに軽い疲労感を覚えました。映画のラストシーンを知ってからそれまでのシーンを思い返すと、すべて意味のあるシーンだったのです。

この映画、単なるミステリーではなく、ラブストーリーでもあります。それも単純なラブストーリーではなく、フェイクに彩られたラブストーリー。そのラブストーリーの幕切れもバッドエンドかハッピーエンドかは、鑑賞者に判断をまかせています。

鑑定士と顔のないない依頼人

高名なオークショニアにして美術品鑑定士の主人公Virgil Oldman(Virgin Oldmanをもじったもの)が、隠し部屋に収集していた高価な女性肖像画を相棒の売れない画家と友人の修復士にすべて盗まれて、茫然自失で映画が終わるかと思いきや、その後の演出がうまい!!

車のトランクに隠して取り付けられたGPS発信器。
 修復士が女性の顧客に見せていたものでした。
カフェでいつも謎の数字をしゃべる女性が本物のクレアだったこと。
 注意深く見ていましたが、本物のクレアがつぶやく数字に意味があったとは!
本物のクレアが屋敷のオーナーだったこと。
詐欺の種明かしを順々に見せてくれます。
ただ一点だけよくわからないことがあります。主人公が暴漢に襲われたのは偶然の出来事なのか、詐欺の計画の一部なのかということです。二度目を見に行けばわかるのでしょうか?

この映画の秀逸なところは、単なる絵画窃盗詐欺のミステリーで終わらせていないことです。
「偽物のクレアが主人公に見せた愛は真実なのか?」という問いかけをしているのです。

贋作者は必ず、自己顕示の「痕跡」を残す。
主人公は贋作者に対して、こういう見解を持っています。
つまりこの絵画窃盗詐欺(=贋作)で、偽物のクレア(=贋作者)は、自己顕示の「痕跡(=真実)」を残したのではないか?ということ。

伏線はあります。
偽物のクレアは小説のライターをしていると言い、今書いている小説のラストをハッピーエンドに変えようかと言います。
偽物のクレアが語った、14才でのプラハ旧市街広場での出来事と実在したレストラン「ナイト&デイ」の話。
盗難事件後、元秘書が主人公のリハビリ施設に持ってきた郵便物。これに偽物のクレアからの手紙が入っていたことを匂わせます。

リハビリから帰ってきて、主人公は偽物のクレアの言った言葉に真実があると信じて、プラハに向かいます。有名な旧市街広場の天文時計の前に居を構え、実在したレストラン「ナイト&デイ」で偽物のクレアを待ちます。偽物のクレアの愛は真実だと信じて。
ラストシーンはギャルソンから「お一人ですか?」と聞かれて、主人公は「連れを待っている」と答え、カメラがズームアウトしてレストランに飾られたたくさんの掛け時計を写して「The End」。
ここに偽物のクレアが現れればハッピーエンド。現れなければバッドエンド。

ジュゼッペ・トルナトーレ監督の知的で精緻な演出には脱帽です。また主人公の収集した絵画にロセッティのジェーン・バーデン(モリス)の女性画やルノワールのジャンヌ・サマリーの肖像画を入れたりと、知的な遊びも楽しくさせてくれます。本物は美術館にあるのにね。
主人公を演じたジェフリー・ラッシュは、この人を念頭においてジュゼッペ・トルナトーレ監督が脚本を書いただけあって、本当に素晴らしい演技を見せてくれます。ジェフリー・ラッシュが出演した「恋に落ちたシェイクスピア」、「英国王のスピーチ」での演技も大好きです。
久々に知的好奇心を刺激する、素晴らしい映画に出会いました。

コメント

_ とおりすがり ― 2014/09/20 18:42

私もこの映画見ました。
主人公が騙されて終わりじゃあまりにも後味が悪いので、あの後お店にクレアが来るって展開のほうがいいですね……。
修復師が残したロボット?も偽物の中の真実みたいなことも言ってましたし、そのほうがストーリーの辻褄は会ってると個人的には思います。

_ Fukumoto ― 2014/10/04 17:29

コメントありがとうございます。
ブルーレイディスクが発売されたので、購入してじっくり復習(?)してみたいと思っています。

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_ 笑う社会人の生活 - 2014/05/09 21:27

5日のことですが、映画「鑑定士と顔のない依頼人」を鑑賞しました。

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